
こんな方におすすめ
- DX(デジタルトランスフォーメーション)に興味がある
- 製造業におけるDXの先行事例が知りたい
- GEの変革プロセスが知りたい
動機
GE(General Electric/ゼネラルエレクトリック)はジャック・ウェルチ時代のコングロマリット路線から製造業への回帰を図ると同時に、シリコンバレーのスタートアップの手法を徹底的に見習い「デジタル製造業」への変革を図っています。
変化を恐れない姿勢とその変革プロセスに興味が湧き、この本を手に取りました。
対象
日本の製造業においてDX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)が着目されていますが、GEはすでに2011年にシリコンバレーにソフトウェア開発拠点を開設してデジタル変革を推進しています。
製造業におけるDXの先行事例として学ぶべきことが多く記載されています。
概要
伝説の経営者とされるジャック・ウェルチによりGEは「脱・製造業」を推進して、小型家電事業などの製造業ビジネスを売却し、金融会社、テレビ放送局、医療機器会社を買収します。そして一時は世界最大の時価総額を誇り、複合企業(コングロマリット)の成功例とされてきました。
ところがリーマンショックで巨額の赤字を計上すると、イメルトCEOの元で製造業回帰を進めます。
それは単なる先祖返りではなく時代の変化に追随した「デジタル製造業」への変革でした。
本書は、著者自身のシリコンバレーでの取材を元にGEの「事業領域、販売製品、開発体制、人事制度、成長戦略」の変革について詳細に示されています。
プロローグではGEがシリコンバレーのスタートアップを徹底的に模倣する道を選び、デジタル製造業を目指すための概略が示されています。
第2章では、GEがリーンスタートアップに出合い、GEデジタルが生まれた軌跡が描かれています。
シリコンバレーのスタートアップは未完成の状態でもいいから、とにかく早く製品を世に送り出し、それを使用した顧客からのフィードバックに基づいて製品を改善し、問題があれば素早く方針転換(ピボット)する。この方法を繰り返すことで、優れた製品を生み出し続けてきた。本書引用P55
この「構築→計測→学習」のサイクルを素早く回すことがリーンスタートアップであり、シリコンバレーが製品開発を成功させている方法論です。
電力、石油、航空、鉄道などのGEの産業用機械を利用する業界は効率がわずか1%改善されるだけで膨大な利益改善が期待できます。 GEは産業用機器にIOTセンサーを設置し、膨大なビッグデータを処理して効率化を図るサービスとして自社開発のプラットフォームPredixを開発しました。
しかし、産業用機械の使われ方や稼働状況は顧客によって全く異なります。
GEは顧客と一緒になってアイデアを考えてアプリケーションを作り込み、更にアウトソーシングせずに自社で行います。
これを実践するためにはアイデアを効率的に生み出す必要があるため、GEでは「デザイン思考」を取り入れています。
(デザイン思考とは、)デザイナーの手法や考え方を応用した、イノベーションを生み出すための方法論である。顧客を徹底的に観察し、顧客が置かれている状況に「共感」することで、顧客に必要なアイデアを考えだすという手法だ 本書引用P110
デザイン思考では人々の行動の背景にある「感情」にも着目し、なぜぞのような行動を取ったのか人の心情に寄り添って考えて真の問題点を探ります。
GEでは解決策をストーリーボードにまとめ、実用上最小限のプロトタイプを開発します。
日本ではデザイン=意匠と捉えることが多いと思います。
しかし、デザイナーとは製品やサービス全体の設計を対象とし、顧客ニーズを製品やサービスに反映させるためにビジネス担当者とソフトウェア開発者を橋渡しする進行役(ファシリテーター)であるとされています。
まとめ
本書は2017年に発行されています。
2018年にはGEは電力事業で巨額の損失を計上し、ダウ平均株価の構成銘柄から外れています。
GEは製造業回帰としてデジタルトランスフォーメーションを実施していますが、その道は険しいようです。
しかし、GEの変化を受け入れる姿勢は学ぶべきであると思います。
またGAFAなどのシリコンバレー企業が実践するリーンスタートアップ、デザイン思考、アジャイル開発はシリコンバレーの強さの秘訣であり、着目すべきと感じました。