
動機
働き方改革による残業時間縮小などにより、短い時間で成果を出す必要がでてきました。
そのためには業務の進め方を根本から見直す必要があります。
その手段として、「OODAループ」が着目されています。その意思決定プロセスに興味があり、本書を手に取りました。
こんな方におすすめ
不確実な環境下に置かれている中で組織を運営するリーダーや経営者の方はOODAループの戦略が参考になります。
製品開発や研究開発などに関わる方もOODAループの意思決定プロセスは役に立つと思います。
組織を動かす人ではなくてもOODAループは役立ちます。
OODAループによって臨機応変にテキパキと対応できるスキルを身につけることができます。
それはビジネスシーンだけではなく私生活にも応用できると思います。
OODALOOPとは何か
OODAループの発案者である故ジョン・ボイドは元アメリカ空軍大佐で、エリート養成機関の主任教官を務めました。
飛行訓練ではどんな不利な位置からでも“40秒あれば逆転できたことから、ついた異名は「40秒ボイド」です。
第1章は1940年のドイツ軍とフランス、イギリス連合軍の電撃戦から始まります。
戦力で劣っていたドイツが勝利したのは「機動力」でした。
機動力は相手を殺傷する目的ではなく、混沌とした状況下で敵を恐怖、当惑、麻痺に陥らせました。
ビジネスにおける電撃戦としてオートバイのシェア争い「ホンダ・ヤマハ戦争」が挙げられています。
1980年代初頭に18ヶ月で当初60種類あったモデルを撤廃して113種類のニューモデルを出しました。
一方のヤマハは37種類にとどまりました。そしてこの戦争の期間中にホンダと消費者の好みがともに進化していき、最終的にはヤマハが敗北宣言をしました。
ホンダは意思決定のサイクルタイムを短くして市場機会を作り、顧客の買いたい製品を投入できました。
このスピードとアジリティ(機敏性)でホンダは戦いを制しました。
ジョンボイドはドイツ軍が勝利を収めた組織文化して、次の4つの属性を抽出しました。
現実に優位性へと導くものは、集団のもつ感情です。
相互信頼とリーダーシップ契約によって、暗黙の了解で意思疎通ができる状態を形成します。
1950年代の戦闘機で、性能の劣るF-86がMiG-15に勝てた理由が挙げられています。
F-86は360度の視界が確保できる風防を装備し、敵をよく観察できました。
そして操縦桿が軽く機敏に操作することができました。
F-86が新奇で思いもよらない行動を生み出し、MiG-15が優れた機動性で反応する前に次の行動に移っていました。
このように敵が反応する前に行動することができれば、相手がどれだけ強大でも勝利のチャンスが高まります。
ジョンボイドは数多くの戦争、戦闘からOODALOOPとして理論化しました。
OODA順の単純サイクルではないですし、アジリティはそのサイクルを速く回すことでもありません。
アジリティとは、迅速かつ容易に移動し適応する能力のことを指します。
タイミングとテンポは味方が行動を支配し、敵にとって予測不能のままとなり敵の心の中に不確実性を作り出します。
OODAループでは暗黙的コミュニケーション(以心伝心の意思疎通)を特に重視しています。
理想は観察→情勢判断→行動であり、暗黙的コミュニケーションに失敗した場合に意思決定のサイクルが加わります。
OODALOOPを仕事に活かすには
OODALOOPを仕事に活かすためには、「暗黙的コミュニケーション」と「PDCAサイクルとの使い分け」が重要と考えています。
暗黙的コミュニケーション
OODALOOPは「暗黙的コミュニケーション」によって、情勢判断から行動に移ります。
普段の業務において何か「行動」する前には、上司の判断を仰ぎ「意思決定」する場面があると思います。
事業規模が大きい場合には、さらに上の役職まで決裁を通して「意思決定」をする必要があります。
そのような手続きを踏むとどうしても「行動」までの時間が多く必要とします。
予測不可能で変化の激しい現代社会においては、時間あたりの生産性が重要視されます。
行動する前に時間を費やしていると、行動に移った際には既に手遅れの場合もあります。
それを回避する方法が「暗黙的コミュニケーション」です。
暗黙的コミュニケーションを上手く行うためには、役職の高い方々が意思決定する根拠を十分把握しておく必要があります。
その根拠は「社是」「経営指針」「行動規範」といった企業活動の拠り所と関連している場合が多いです。
近年では、企業コンプライアンスを徹底する動きに関連して「クレド」が注目されています。
クレドは社員個人が行動する際の指針のことを指します。
すぐにクレドが取り出せるように、カード状のクレドを使っている企業も多くみられます。
クレドのように、1つの行動指針を共有することで自分で「意思決定」が可能となります。
社員自身が率先して行動指針を身につけるとは限りません。
役職の高い方は、自らの行動指針を部下に示すことも重要です。
伝え方として、重要なことを1つに絞ることが有効です。
メッセージの量が多いと、下の階層まで伝わるころには内容が荒削りされて本当に伝えたいこととは別の内容になる危険性があります。
よって情報量を10分の1に絞り、シンプルなメッセージにすべきです。
そして何度もメッセージを発信することで、組織内に醸成されていきます。
PDCAサイクルとの使い分け
PDCAサイクルは「業務改善サイクル」であり、演繹的なアプローチです。
すでにある事象に基づいて課題を解決していく手法です。
一方で、OODALOOPは仮説形成型の帰納的アプローチです。
帰納的アプローチなので、個別の事象や多くの命題を「観察(observe)」することで状況を的確に判断します。
PDCAサイクルとOODALOOPは問題解決のフレームワークとして同列で語られることもありますが、全く別のアプローチであることがわかります。
そして、どちらか一方ではなく状況に応じて使い分けることが重要と言えます。
使い分ける方法として「問題の解像度」が挙げられると思います。
研究開発の上流や新規事業開発、経営企画など「問題の解像度が低い」場合は、OODALOOPが適しています。
製品化や実証においては「問題の解像度が高い」ためにOODALOOPよりもPDCAサイクルの方が適しています。
PDCAサイクルについては「孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA」が参考になると思います。
この本では、ソフトバンクの多くの新規事業を同時手掛けて実行してきた「高速PDCA」について示されています。
まとめ
目まぐるしく環境が変化する中で製品開発や問題解決をするためにはOODAループの戦略が優位だと思います。
意思決定を高めるためには、アジリティと暗黙的コミュニケーションが成り立つ組織形成が大切です。
AIはビッグデータから洞察することに優れていますが、少数の観察データはAIに頼ることはできません。
人間臭い洞察力をいかにOODAループの中で保持し磨き上げていくのかが今後のビジネスで求められると感じました。